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直虎 ネタバレ 第一話

投稿日:2016年12月11日 更新日:

おんな城主直虎、第一話のネタバレです。

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井伊谷の少女

崖の上を風が過ぎた。岩陰で、とわはしばらく耳を澄ませた。

静かだ。よしっ。

立ち上がったそのとき、

「おとわ、覚悟!」

はっと見ると、誰もいないと思っていた斜面の草むらから、鶴丸が顔を突き出していた。

「鶴、こっちだ! こっちにもおるぞ!」

亀之丞だ。

幼なじみで十前後と年も近い三人は、鬼ごっこに夢中になっていた。鬼役の鶴丸に見つかったとわをかばおうと、亀之丞が叫んだのだ。

鶴丸は草をかき分け、猛然と距離を詰めてくる。崖の端に追い詰められたとわは、崖下を見た。

数日続いた雨のあとで、はるか下を行く川の流れは速く、荒い。
負けん気がむらむらと込み上げた。後先を考えず、とわは激しい流れの川へ身を躍らせた。

うわあっと叫ぶ二人の声が、頭上へ遠ざかっていった。
時は天文十三(一五四四)年。所は遠江、井伊谷。
浜名湖の北の山あいに広がる、温暖な土地である。
その名のとおり井伊谷は、五百年ものいにしえから、井伊一族によって守られてきた。

しかし世は戦乱のただ中。駿河の名門・今川家によるたび重なる迫害に耐えきれず、この数年前には白旗を掲げて、今川家の完全な統治下に入ってしまっていた。
先々代の当主・井伊直平は娘を人質に差し出し、家督を継いだ嫡男はすでに亡く、孫の直盛が現当主である。

その直盛は、今川家家臣で目付を務める新野左馬助の妹・千賀を正室に迎えることを余儀なくされた。
とはいえ夫婦の仲はむつまじく、二人はほどなく姫を授かった。それが、とわである。
直盛は娘を溺愛し、一方で、男児のように育てた。
乗馬の腕も磨かせ、とわも喜んで従った。

それが、男勝りで向こう見ずな、とわの性格を育てあげたのかも
しれなかった。
さてーーー。
川に飛び込んだとわが、流れに飲まれかけ、やっとの思いで岸辺に泳ぎ着いた頃、父の直盛は、井伊の居館の一室で評定を聞いていた。
参席しているのは、井伊家の重臣である奥山朝利や中野直由、千賀の兄・左馬助たちである。
一同が見守る中、口角泡を飛ばしてやり合っているのは、直盛の叔父に当たる井伊直満と、家老の小野和泉守政直。犬猿の仲で知られるこの二人はそれぞれ、亀之丞と鶴丸の父親である。
「井伊の家督は井伊の男子が継ぐ。それの何が不服じゃと申す」
直満が言えば、政直が切り返す。

「武家の婚姻とは調略の場。今川の家臣より養子をお迎えすれば、太守様の覚えもめでたくなりましょうと申しておるのでございます」

太守様とは、今川家の当主・義元のことである。

政直は井伊家の家老職にありながら今川びいきのため、井伊家内では疎んじられ、信任の薄い存在であった。

今論じられているのは、とわの縁組みのことだ。

当主・直盛には息子がいない。万が一のことがあれば家の断絶を招くかもしれず、先のことを考えると、今から後継者を定めておく必要がある。

そこで直満が、みずからの嫡男・亀之丞をとわの婿養子とする提言を持ち出したのだった。

「今川の機嫌とりはもう十分であろうと言うておるのじゃ!」

直満が胸を反らして言った。一同も加勢に回り、政直は何かを考え込む様子になって沈黙した。

乳母のたけに伴われ、びしょぬれで館に戻ったとわは、野駆けに出かけようとしている直盛の姿を見つけ、いそいそと自分の馬を引き出した。

「なんじゃ、そのいでたちは」

直盛が、髪から滴を垂らす娘に目を丸くする。

「父上、お先に参ります!」

馬に鞭をくれる娘を、直盛は苦笑して追った。

四半刻ばかりのち、父と娘は、井伊の領地を眼下におさめる丘陵に馬を並べていた。

ややあって、直盛がしみじみとした口調で言った。

「お前が男であったらば、面倒なことも起こらぬものを」
「面倒なこと、とは?」

それには答えず、直盛は大きな声を発した。

「いっそ、おとわが継ぐか?わしの跡を。な」
「われはずっとそのつもりなのですが」
「ではそうするか。よし、ではそろそろ戻るか!」

馬首をめぐらす父の物腰や言葉つきに、無理につくったような明るさをとわは感じた。

直盛の居館の裏手に、龍漕寺という禅寺がある。

井伊家の菩提寺であり、今は、直盛の叔父に当たる南渓が住職を務めていた。

とわたちが文武を学ぶのもこの寺だ。指南役は、武術全般に通じる傑山と、学問に強い異天。

南渓を支えてもいる、二人の若い僧侶だった。

手習いを終えたとわたちが寺の井戸に向かうと、先客がいた。

南渓だ。

「お主らは、ご初代・共保公のことをなんと聞いておる?」

この地で知らない者はない。

ある日、この寺の井戸に赤子が捨てられているのを見つけた近くの八幡宮の神主が、「これはただならぬ子」と拾って育てた。

その子が長じて、井伊谷の井伊家を開いたのだと伝わっている。

鶴丸がそう答えると、南渓がさらに言う。

「井戸の中に放り込まれては、普通、赤子は死んでしまう。なのに、なぜにご初代様は生きておられたか。つくづく不可思議じゃ」

からん、と乾いた音がした。

亀之丞が、拾い上げた石を井戸に投げ込んでいた。

「涸れておる…涸れ井戸であったからではないか?赤子が生きておられたのは」
「井戸端に捨てられておったのを、井戸の中ということにしたのかもしれぬな。井戸端では、ありがたみがないゆえ」
鶴丸が言い、とわのほうに視線をめぐらしたとき、亀之丞がつらそうな顔でしゃがみ込んだ。

亀の丞は体が弱い。

とわは亀の丞をおぶった鶴丸とともに直満の屋敷に駆け込んだ。

そのまま亀之丞に付き添っていると、直満が上機嫌で現れた。

そして、浮き立つような調子で言った。

「実は二人はな・・・夫婦約束をすることになった。今日の評定でそう決まったのじゃ」

「め、めおとですか?」

たじろぐ亀之丞に、直満が高らかに続ける。
「亀之丞は姫の婿となり、井伊の当主となるのじゃ!」

とわは声を失っていた。亀と夫婦…?ついさっきまで、思ってもいなかったことだ。

ろくに挨拶もせず、急いで館に戻ったとわは、直盛に詰め寄った。

わしの跡を継ぐか?と、父上は仰せになったばかりではないか・・・!
「それは、言葉のあやというか、勢いというか・・・」
口ごもる父に代わって、母の千賀が口を聞いた。
「そもそも、おなご一人で家を継げるわけがないでしょう」

「しかしーー」
「もし、仮に、よしんば、あなたがご領主様になろうが、誰かと夫婦になることは変わりませぬ。跡継ぎをもうけねばならぬのですからね」

亀之丞の柔和な顔が浮かんだ。

あの心優しい亀と夫婦になる・・・。

胸の奥が、ずきんと甘く脈打った。

それに、遠い土地に嫁ぐのではない。

この家で、父母と、これまでどおりに暮らせるのだ。

「・・・確かにおっしゃるとおりでございます」
「では、よいのじゃな」

直盛がほっとした顔をすると、とわは思い切り声を張って言った。

「はい! おなごに二言はございませぬ!」

その日もとわは、龍漕寺に足を向けた。

先に来ていた亀之丞と鶴丸は、庭で傑山に武術を習っている。

とわは、亀之丞と顔を合わすのがてれくさい。

そこに、南渓がふらりと現れた。

「亀が張り切っとるのう」
「張り切りすぎて、熱が出ねばよいのですが」
「なんじゃ、もう、亭主の心配か?」

二人の婚約話は早くも広まっているらしく、南渓はにやにや笑いで言う。

このところ気になっていることを、とわは南渓に聞いてみた。

「われの身の回りで不思議なことが起こっていての」

この間、川に飛び込み、水中で方向を見失ったとき、導く声が聞こえた気がした。

覚えのない馬の飼い葉が置かれていたこともあったーー。

「おとわ、それは竜宮小僧というやつじゃ」

南渓が重々しく言った。

竜宮小僧は、知らぬ聞に田に苗を植えてくれたり、洗濯物を取り込んでおいてくれたりするという、伝説の小僧だ。

そこに、稽古を終えたか、汗みずくの亀之丞と鶴丸が小走りにやって来た。

はにかんだ顔の亀之丞と、とわはそっと目くばせを交わした。

同じ頃、井伊の居館には、直盛と直満、政直、左馬助が顔をそろえていた。
左馬助が駿府に出向き、とわと亀之丞の婚約の件を今川家に知らせたところ、直満がじきじきに挨拶に出向くよう達しがあったという。

「なぜ、なぜ、わしが駿府へ行かねばならぬ!」

激しく動揺する直満に、直盛はおやと目を向けた。

「亀之丞様のお父上として、と存じますが」

左馬助もけげんそうな顔で言う。

「なんじゃ、では初めからそう言うてくれ」

落ち着かず、どこか不自然な態度だった。
その翌日、左馬助に伴われ、直満は駿府へ向かった。

とわは、亀之丞と鶴丸を引き連れ、「竜宮小僧」を探し回っていた。

今日は森の探素である。

先に進もうとするとわに、鶴丸が声をかけた。

「探し始めてから、もう五日じゃ。亀も疲れておるじゃろうし、もうよいのではないか」

「亀は平気だと言うたではないか。のう、亀?」

それを聞き、鶴丸が眉をつり上げた。

「お前は姫じゃから、周りの者は逆らえぬ! そういうことを少しは考えろと言うておるのじゃ!」

二人はにらみ合う。

そのとき、高く澄んだ音が響いた。

亀之丞の横笛だ。

その音色に、言い合いも忘れ、とわと鶴丸はうっとりと聞き入った。

「・・・見事じゃのう、亀の笛は」

「俺のとりえは、これだけじゃからな」

亀之丞が笛の吹き口をそっと拭ったとき、とわたちの耳に何かが聞こえた。

音のしたほうに近寄ると、洞窟がぽっかりと口を開けていた。

三人は恐る恐る奥に進んでいく。

不意にとわが立ち止まり、あっと叫んだ。

「井戸の子は、竜宮小僧であったのではないかけ」
「何を、やぶから棒に」

鶴丸が、またかと顔をしかめる。

「竜宮小僧は淵に住んでおると聞く。ならば、井戸の中に放り込まれでも息ができたのではないか!」

今度は亀之丞が、のどの奥で妙な声を出した。

その視線を二人も追った。

人が倒れていた。

山伏の格好で、ぴくりとも動かず、血まみれでーー。

三人は顔を見合わせた。

そして声にならない叫びを上げ、洞窟の出口めがけて一斉に駆けだした。

龍揮寺に走り込んだ三人は、南渓とその場に居合わせていた直盛を洞窟に案内した。

南渓が経を唱え、直感やとわたちは手を合わせる。

死体を調べ始めた南渓と直盛が、何やら難しい顔でぼそぼそと話した。

そのとき、亀之丞が口を聞いた。

「この者を、見た覚えがあります。先日、屋敷に来ていた者かと」

直盛と南渓は顔を見合わせ、先に戻ると言って慌ただしく去っていった。

とわたちも急いで洞窟を出た。

井伊の居館で三人を待っていたのは、亀之丞の父・直満が駿府で落命したという知らせと、その首を収めた丸桶だった。

「亀之丞。そなたの父上は・・・みまかった。謀反をたくらんだかどで、太守様に討たれたとのことじゃ」

いつになく険しい表情で、直盛が言った。

「・・・む、ほん、とは?」

上ずり、かすれた声を出す亀之丞に、うなだれたままでいる左馬助が応じた。

「太守様は、北条に宛てた直満様の密書を手にしておられました。そこには、今川と手を切り、北条に加勢したいと書かれており・・・」

館の庭には家内の者が集まっていたが、物音ひとつせず、息苦しいほど重い沈黙が垂れこめている。

亀之丞がふらふらと丸桶に近づいていくのを、とわは見守ることしかできずにいた。

一方、鶴丸は、定然としながら館をあとにしていた。

ーー金目のものがそのままじゃ。

斬られたのは恨みか、それとも、ほかに欲しいものがあったか。

洞窟で聞いた南渓の言葉がよみがえる。

ある筋書きが考えられた。

亀之丞が男を見たのが事実なら、直満の密書を預かりに来たのではなかったか。

それを北条に届ける途中で襲われたのだとしたら?

だとすると、密書を奪わせたのは誰なのかーー。

直満の死により、井伊家内は騒然となった。

一里ほど離れた川令の里で隠居している直満の父・直平も、馬を飛ばして井伊の居館に姿を見せた。

わが子の不慮の死に激憤する直平は、主殿に入るなり荒い声を放った。

「小野か? 直満を売った下郎は小野かと聞いておる!」

「じじ様、今は時がございませぬ」

直盛が、低く押し殺した声で言う。

その顔には、深い苦渋が刻まれている。

続けて左馬助が言った。

「実は太守様からは別の下知も受けております」

月明かりが寺の庭を照らしていた。

井戸端に座っている亀之丞の姿を見つけ、とわは心底ほっとした。

父親の死を受け止めきれないのか、亀之丞は館から、いつの間にか姿を消していたのだ。

「亀! もう、どこへ行ったのかと思ったぞ!」

近づき、亀之丞の手を取って、とわはぎょっとした。

「亀、熱が・・・」

亀之丞はとわの手を乱暴に振り払った。

「どうせ、長くは生きられぬような体じゃ。放っておいてくれ!・・・鶴のように頭がよいわけではなく、おとわのように体が動くわけでもなく・・・俺など、ただ、井伊の血を引いているだけの、ただの出来損ないやはないか!」

とわは思わず亀之丞の頬を張り、大声で叫んでいた。

「われの夫は出来損ないではない!誰よりも笛がうまく、人を惹きつける笑顔を持ち、なれど、本当は人一倍負けん気で、つらいときも決してつらいと言わぬ。よい男じゃ」

とわを見つめ、ぼろぼろと涙を流す亀之丞に、とわは重ねて言った。

その目からも涙があふれた。

「もし、このまま体が強うならねば、われが亀の手足となる。亀の代わりにわれが馬に乗り、村々を回る。いざとなれば太万を伽き、戦にも行ってやる」

「おとわは、俺の竜宮小僧になってくれるのか」

とわは、泣きながら、強く、何度もうなずいた。

そのとき、視界の端で黒い影が動き、同時に亀之丞が声を張った。

「おとわ、逃げろ!」

影が覆いかぶさり、太い腕が首に巻きついた。

線香の匂いがし、とわの記憶はそこで途絶えた。

気付くととわは、自分の部屋の布団の中にいた。

開いた目に、枕元に座る千賀の顔が映った。

とわはがばと身を起こし、「亀は!」と叫んだ。

「父上が、あるところへ逃がしました」

千賀は言い、先刻、龍漕寺でとわと亀之丞を襲ったのは、直盛の命を受けた傑山であったことを話した。

そして、静かに付け加えた。

「亀の首を差し出すようにと、下知があったのです」

瞬間、頭の奥が白くなった。

母の声が続いた。

「今川からの下知に背き、わざと逃がしたことが知られれば、井伊は今川に攻め込まれ、父上はもちろん、私もあなたも打ち首になるかもしれません。・・・だから、今聞いたことはすべて忘れなさい」

一睡もできないうちに、夜が明けた。

とわは館を抜け出し、龍潭寺へ足を運んだ。

涸れ井戸に向かって手を合わせ、一心不乱に祈りを棒げた。

「ご初代様。亀の無事を、井伊の無事を・・・」

祈るのに疲れて目を開け、ふと気付いた。

井戸の脇に何かが落ちている。

あれはーー。

「亀の笛だ・・・・・・」

笛を手に取った次の瞬間、矢も盾もたまらず、とわは全力で駆けだしていた。

第一話 以上。

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